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洪水・土砂災害からの速やかな避難を実現するために

2019.01.24

 「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」から半年が経過した。死者・行方不明者は平成最悪となる200人超に上り、迅速な避難の重要性を改めて思い知らされる大規模災害だった。

 西日本豪雨の教訓を踏まえて水害・土砂災害からの避難のあり方を検討していた政府の中央防災会議の作業部会が報告書をまとめ、災害時の速やかな避難を実現するための具体策を提言した。

平成最悪の人的被害を出した西日本豪雨

 平成30年7月、停滞した梅雨前線や台風7号の影響で、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となり、1府10県に相次いで大雨特別警報が発表された。一度の大雨で特別警報の発表が11府県にものぼったのは、平成25年の特別警報運用開始以降初めての異常事態だった。

 各地で河川のはん濫や土砂災害が相次ぎ、死者・行方不明者は1府13県で232人に上った。豪雨災害による死者・行方不明者が200人を超えたのは「昭和57年7月豪雨と台風10号」以来となった。

 報告書の参考資料に掲載されたグラフをみると、戦後の昭和30年代までは枕崎台風、伊勢湾台風など数千人の犠牲者を数える大災害が頻発していた。その後、堤防やダムなどのハード整備が進んだのに加え、気象予測技術が向上するなどソフト対策も充実、水害等による人的被害は大きく減少。1990年代、平成に入って以降は100人を超える被害は発生していなかった。その意味からも、死者・行方不明者200人超となった今回の豪雨被害がいかに甚大であったかがわかる。

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避難の遅れで被害が拡大

 大規模災害が発生する度に避難の遅れが問題になる。残念ながら、今回の西日本豪雨でも避難の遅れが人的被害を拡大した。

 岡山県倉敷市真備町では、河川の堤防決壊に伴う大規模な浸水被害で51人が亡くなったが、このうちの8割を70代以上の高齢者が占めた。犠牲者のほとんどが逃げ遅れて家屋内で溺死したとみられている。

 西日本豪雨の被災地では、最大で約860万人に対して、避難勧告などの避難を促す情報が発令された。一方で、避難所に避難した人は最大で4.2万人と、対象人数の0.5%にとどまった。もちろん、指定避難場所に移動するだけが避難ではない。近隣の安全な場所に逃れたり、屋内で安全確保をしたりした人も少なくないだろうから、避難行動をとった人はもっと多いはずだ。しかし、多くの人が速やかに避難できなかっただろうことは、避難所に避難した人が少なかったことからも推測できるのではないか。

洪水・土砂災害の警戒レベルを5段階で発表へ

 速やかな避難の重要性が認識されていない現状をどう変えていくべきか――。検討の結果、報告書では行政が主導して防災対策を強化するという従来の方向性は根本的に見直す必要があると指摘。そのうえで、「災害時、住民は自らの判断で適切な避難行動をとり、行政は住民を支援する」ことを目指すべきであると明記した。

 目指すべき社会を実現するための戦略として、報告書が取り上げたのは(1)災害リスクのある全ての地域であらゆる世代の住民に対する普及啓発(2)全国で専門家による支援体制を整備(3)住民の行動を支援する防災情報を提供――の3点。

 何より、「自分の命は自分で守る」という意識をすべての住民が持つことが重要だ。災害リスクのある小・中学校等では避難訓練や防災教育を実施する。地域においても、住民が主体となった避難に関する取り組みを強化するため、防災リーダーを育成するなど防災力を高めていく。高齢者に対しては、「防災」と「福祉」が連携し、高齢者の避難行動に対する理解を促進していく。 地域におけるこうした取り組みを支援するため、それぞれの地域に精通した防災専門家による支援体制も整備するという。

 複雑になった防災情報をわかりやすく整理する方向性も打ち出した。自治体が出す避難情報と気象庁が発表する防災気象情報等を危険度別にレベル分けし、各レベルにおいて住民がとるべき行動を対応させる案を示した。

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 具体的には洪水・土砂災害の警戒レベルを1~5に分類、警報級の現象が予想されるときに発表される気象情報を「レベル1」、大雨や洪水注意報を「レベル2」、自治体の避難準備・高齢者等避難開始を「レベル3」、避難勧告、避難指示(緊急)を「レベル4」、すでに災害発生したときを「レベル5」として、避難情報や防災気象情報を提供、速やかな避難につなげたい考えだ。

 報告書の提言を受け、政府は避難に関するガイドライン等の見直しを進め、実際の運用を開始するという。具体的な運用法が定まったら、あらためて確認しよう。