1. ホーム
  2. レポート
  3. 防災の現場
  4. 避難所の環境改善を訴えるシンポが開催

避難所の環境改善を訴えるシンポが開催

2018.05.29

大規模災害が発生すると、地域の小学校の体育館などに避難所が開設され、自宅等から逃れてきた避難者を一時的に受け入れる。体育館等の施設は人が住むことを前提に作られているわけではない。だから、避難所における避難生活は不自由で、厳しい。過酷な避難生活によって体調を崩してしまうと、災害関連死につながるおそれもある。

各地で大規模災害が相次ぐなか、避難所の生活環境を改善しようとする取り組みも広がっている。28日には、避難所環境の整備をテーマにしたミニシンポジウムが都内で開かれた。

キーワードは「T:トイレ」「K:キッチン(食事)」「B:ベッド」

ミニシンポジウムは、『いのちと健康を守る 避難所づくりに生かす18の視点』(「別冊地域保健」、東京法規出版発行)の発行を記念して28日夕、東京都文京区の東京法規出版で開かれた。避難所・避難生活学会と同社が主催した。シンポでは、同誌に稿を寄せた14人の執筆者がそれぞれの取り組みについて報告、会場からの質問にも答えた。

20180529_01.jpg

ミニシンポで何度も強調されたキーワードは「T、K、B」。Tはトイレ、Kはキッチン(食事)、Bはベッドのそれぞれの頭文字を意味している。これらは避難所の環境状態を決定づける重要な要素であり、避難所の環境を改善するためにはTKBを適切に整備することが最も重要であるという。

発災後に開設された避難所で、最初に必要になるのはトイレ。その数が不足して不衛生な状態が続くと、避難者はトイレを我慢するようになる。水を飲まなくなれば、さまざまな健康上の問題を引き起こしかねない。避難所における深刻なトイレ問題の実態を報告した加藤篤・特定非営利活動法人日本トイレ研究所代表理事は、避難所のトイレを適切に整備することは、「人間のいのちと尊厳を守ることにほかならない」と指摘した。

避難所における食事も重要だ。おにぎりやパンといった炭水化物中心の食事は、一時の飢えをしのぐことはできるが、栄養は偏り、飽きやすい。根本昌宏・日本赤十字北海道看護大学教授によると、厳冬期の発災を想定した無暖房の避難所演習では、暖かい食事の提供が避難者の体を温めることに極めて有効だった。笠岡(坪山)宜代・国立健康・栄養研究所国際災害栄養研究室室長は、避難所で栄養バランスのよい食事を提供するためには、ガスが使えて調理ができる環境を早期に整備することが欠かせないとする研究結果を報告、「災害時こそシッカリ栄養を!」と訴えた。

被災地の避難所で簡易ベッドを普及させる取り組みを続けている水谷嘉浩・Jパックス株式会社代表取締役は、1930年の伊豆地震と2016年の熊本地震の避難所を撮影した写真を紹介した。どちらも被災者は板の間に布団を敷いて雑魚寝しており、避難所の様子は88年間変わっていない。「日本人はこの光景に慣れ過ぎて異常とは感じないが、これは異常なこと」と水谷さん。段ボールベッドの使用がエコノミークラス症候群などの予防に効果的だとする研究結果を紹介しながら、床での雑魚寝から簡易ベッドの使用へと「避難所の景色を変えたい」と意気込んだ。

草島進一・一般社団法人オープンジャパン理事も、阪神・淡路大震災以来の自身の災害ボランティア活動の歩みを振り返り、避難所にテント・簡易ベッドを並べる取り組みの重要性を強調した。

ミニシンポではこのほか、避難所の衛生対策、母子の避難、福祉避難所、弾性ストッキング、避難所の集約・移動、在宅被災者、生活再建の法制度、海外の避難所などのテーマについても、それぞれの執筆担当者から興味深い報告があった。

いのちと健康を守る避難所づくりをテーマにした「別冊地域保健」は1日に発行

今回のミニシンポは、前述の通り、保健師のための情報誌「地域保健」の別冊『いのちと健康を守る 避難所づくりに生かす18の視点』(B5判96ページ、発行日は5月1日)の発行を記念して開催された。

20180529_02.jpg

同誌では、避難所において避難生活を余儀なくされた被災者のいのちと健康を守るために、タイトルに掲げた「18の視点」を提示している。すなわち、「ガイドライン」「トイレ」「衛生」「肺炎」「母子」「福祉避難所」「エコノミークラス症候群」「弾性ストッキング」「テント」「段ボールベッド」「布団干し」「寒冷期」「人間関係」「食事」「集約と移動」「在宅被災者」「生活再建と法制度」「海外の避難所」――の18の観点について、災害支援活動に携わる研究者・実践者が、望ましい避難所づくりに求められる考え方を紹介し、具体策な方策を提言している。

監修は、避難所・避難生活学会理事長をつとめる榛沢和彦・新潟大学医歯学系呼吸循環外科教授。榛沢教授は、この日のミニシンポでも、自身が継続して取り組んでいる避難所におけるエコノミークラス症候群対策や海外の先進事例としてのイタリアにおける避難所運営などについて紹介。「避難所の環境改善には避難所をよくしたいと国民が声を上げることが大事。防災は、防衛や外交と同様に国が主導的に取り組むべきだ」と強調した。

ミニシンポでも取り上げられた各テーマに興味のある向きは、ぜひ「別冊地域保健」を実際に手に取って確認してみていただきたい。同誌の入手など詳細については、「地域保健WEB」のサイト