1. ホーム
  2. レポート
  3. 防災の現場
  4. 避難勧告等の発令が遅れるリスクと「空振り」のリスク

避難勧告等の発令が遅れるリスクと「空振り」のリスク

2015.11.30

 前回、今年6月に広島土砂災害を受けて政府の中央防災会議作業部会が「総合的な土砂災害対策の推進について」と題する報告書をとりまとめたことに触れた。同報告書には、避難勧告発令などの実態に関する自治体アンケート調査の結果が紹介されている。避難勧告などに対する住民の反応などについても聞いており、興味深い調査結果となっている。

避難勧告等の発令が災害発生後になるケースは依然として多い

 内閣府と総務省消防庁によって実施されたアンケート調査は、平成26年4月から11月にかけて自然災害に伴って避難勧告・避難指示を発令した392市町村を対象にした。回答が寄せられた避難勧告・指示784ケースのうち、土砂災害を対象としたものは440ケースあり、報告書はこれら土砂災害のケースについて分析結果を示した。

20151130_01.jpg

 それによると、避難勧告・指示を発令した440ケースのうち192ケース(約44%)で土砂災害を含む何らかの災害が発生した。このうち災害発生前に発令できたのは105ケース、災害発生後に発令したのが78ケースだった(無回答9ケース)。発令時刻別にみると、明るい昼間(6時から18 時)に発令したケースは全体の3/4を占め、暗い夜間(18時から翌6時)の発令は全体の1/4にとどまった。

 報告書は、「いわゆる『空振り』が多いわけではない」と評価しながらも、発令時刻については、「夜間でも躊躇なく発令したケースは少なかったと考えられる。6時から9時の割合が高いのは朝まで発令を待ったケースが多かったのではないか」と指摘した。また、「約4割が災害発生後に発令しており、災害発生前に発令できず後手に回ったケースが依然として多い」とも述べた。

 実際に災害が発生したケースが約4割だったのは、一般的な感覚とは別に技術的には確かに「空振りが多いわけではない」のかもしれない。だとすれば逆に、空振りを恐れず躊躇なく避難勧告等を発令することは実際問題として非常に困難であることを示しているのかもしれない。夜間であればなおさら発令しにくいのが現場の実情なのだろう。

「空振り」を批判する住民は実のところ多くないか

 避難勧告等を躊躇なく発令することが難しいのは、空振りなどに対する住民からの反応を恐れるためだと考えられる。アンケートでは避難勧告等に対する住民の反応がどうだったのかも聞いている。実際のところ住民からはどのような反応が示されたのだろうか。

20151130_02.jpg

 実際に災害が発生した192ケースでは、「評価された」18件(9.4%)に対し、「いくつか苦情があった」「苦情が殺到した」は計70件(36.4)%だった。一方、結果的に災害が発生しなかった246ケースでは、「評価された」17件(6.9%)、「いくつか苦情があった」「苦情が殺到した」は計64件(26%)だった。

 災害が発生したケースで評価された割合が高いが、発生しなかったケースでも一定の評価があったことに注目したい。また、災害発生ケースで苦情が多かったことについて報告書は「避難勧告等が十分に伝達されず、あるいは伝わったが理解されず災害が発生したことに対して反応があったのではないか」と推察した。ここでも、災害が発生せずに結果的に空振りに終わったケースでは、発生したケースよりも苦情の割合が少ないことが目を引く。

 さらに、いずれのケースでも「特になし」の回答が半数以上を占めている。発生しなかったケースでその割合が6割を超えていることも考慮すれば、避難勧告等の空振りを批判する住民は実際のところさほど多くないという仮説も成り立ちそうだ。

 現場の感覚からすれば楽観的に過ぎる類推かもしれないが、避難すべき事態が迫っているような場合に、自治体側には勇気をもって避難勧告等を発令する姿勢を示すことが求められている事情に変わりはない。避難勧告等を発令せずに、あるいは災害発生後に発令して人的被害が発生するリスクと、避難勧告等が空振りに終わるリスク。どちらが許容できるリスクなのか、このことを行政も私たち住民も今一度考えてみる必要があるだろう。