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750万部発行の防災ブック「東京防災」は都民でなくても役に立つ

2015.10.17

 東京都が作成した防災ブック「東京防災」が評判を読んでいる。「東京防災」は、今後30年以内に70%の確率で発生するとされる首都直下地震を始めとして、都内で発生しうるさまざまな災害対策を網羅した防災本だ。都は750万部を作成し、都内の全世帯と事業所に配付するという。自治体が発行する防災啓発物としては相当の力作で、東京オリンピックを控えて災害に立ち向かう自助の力を高めたい東京都の本気度が伝わってくる。

無償配布する自治体の啓発物としては異例の贅沢さ

 ブログ子の自宅にも先月中旬に届いた。手に取って、まずはその贅沢な作りに驚いた。黄色地に黒文字の「警告色」でデザインされたインパクト抜群のタイトルが印刷された箱入りだ。頑丈な段ボール製の箱だから、保存用にも使えるとの配慮だろう。

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 箱を開けるとたくさんの内容物が詰め込まれている。防災ブック本体、本を包んで汚れや水濡れから守るビニールカバー、地区別に刷り分けた防災マップ、「防災アクション」を呼びかえるステッカー、舛添要一都知事のメッセージシート――。本を読む前から、とにかく「お得感」を抱かせるセットになっている。これをタダで配布するというのだから、東京都の防災にかける熱意がわかる。

 贅沢さは、制作物そのものからもうかがえる。本が四六判(127×188ミリ)と小ぶりな単行本サイズなのは携帯や扱いやすさを考慮したのだろう。すでに述べたように、黄色と黒の2色を使っているが、印刷自体はフルカラー。別に2色刷りで経費を削減しているわけではなく、危機意識を示すためにあえて基本2色で効果的に表現している。本体は本文336ページもある。伝えたいことをできるだけ盛り込むために、紙代もけちらなかったようだ。新聞報道によると、印刷・配布費用は約20億4,000万円らしい。東京都の財政力の豊かさは他の自治体にはうらやましい限りだろう。

内容面でもさまざまな工夫、従来の啓発物とは一味違う

 問題は本の中身だが、内容に関しても従来の自治体が作る防災啓発物とは一線を画している。最も目立つのは巻末(裏表紙から読めば巻頭に位置する)に掲載された漫画家かわぐちかいじ氏描き下ろしの「Tokyo X Day」というマンガだろう。首都直下地震が発生して都内が壊滅する様子を迫真の筆致で描き、地震への備えを強く訴えている。

 本は5章構成。「大震災シミュレーション」の章では、首都直下地震が発生した際の身の守り方を場所別に細かくアドバイスするほか、避難の判断から避難生活を経て生活再建に踏み出すまでを時系列に説明している。首都直下地震では約1万1,000人の死者が想定されているが、「日常生活に向けて」という節にある「死と向き合う」という記述などは、これまでの啓発物とは一味違う印象を与える。行政の啓発物では通常、このような直接的な表現は忌避されやすいからだ。

 「今やろう防災アクション」の章では、「物の備え」「室内の備え」「室外の備え」「コミュニケーションという備え」という大地震に向けた4つの備えに、今すぐ取り掛かるよう呼びかけている。「そのほかの災害と対策」では、大雨・暴風、集中豪雨、土砂災害、落雷、竜巻、大雪、火山噴火という自然災害に加え、テロ・武力攻撃という人為災害や感染症対策について対処法を解説している。「もしもマニュアル」では、心肺蘇生法や断水時のトイレの使い方といった「サバイバル術」にも言及。「「知っておきたい災害知識」では、自然災害の発生メカニズムや被災後の生活支援制度等を解説している。

問い合わせが多く、都は有償での頒布も検討

 「東京防災」は読んでおしまいという類の本ではない。「家族で今やろう」として避難所の場所や避難経路、災害時の家族との連絡方法などについて書き込むことができる記述欄も設けた。自由にメモできる白紙ページもあり、各家庭で記入してはじめて防災ブック「東京防災」は完成する作りになっている。このほか、小中高生向けの「防災ノート」も発行している。

 その他特徴として目立つのが、付録的にまとめられた「用語解説」「世帯別」「場所別」の3種類のインデックスだ。世帯別インデックスでは、ひとり暮らしの人や要配慮者がいる家族など世帯の状況別に取り組むべき対策ページを案内している。全部を読み通してもよいし、自分の世帯にあった対策をピックアップして読むこともできるというわけだ。

 本は都内世帯には無償で配布されるが、都民でない人も東京都の特設サイトでデジタル版を読むことができる。どこに住んでいようと基本的な災害対策に違いはないので、ぜひ一読をお勧めしたい。余分に入手できないかとの問い合わせが多いため、都は今後有償での販売も検討しているという。安価での提供が予定されているだから、後日実物を求めるのもアリだ。