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防災に関する「最新の知」に触れる1か月―京都大学の連続講演会始まる

2015.03.15

 東日本大震災の発生から4年目となる今月、京都大学の連続講演会「東京で学ぶ 京大の知」シリーズ17が東京都港区の京都大学東京オフィスで始まった。シリーズタイトルは「変動する社会と激変する自然災害」、同シリーズとしては初めて防災をテーマに取りあげた。毎週木曜日の午後6時半から8時までという時間設定で仕事帰りの社会人も参加しやすい同講座。毎回会場いっぱいの参加者があり、市民の自然災害への関心の高さをうかがわせている。本ブログも受講の機会をいただき、大いに勉強させてもらっている。今回は5日と12日に開催された講演会の概要を報告する。

斜面災害のメカニズムなどを分かりやすく解説した「豪雨と斜面災害」

 シリーズ初回の5日は、京都大学防災研究所の松四雄騎・准教授が「豪雨と斜面災害―雨の降り方、地質、地形から地域の減災を考えるー」と題して、土砂災害について講演した。

 昨年は過去30年間で最悪の人的被害を出した広島土砂災害が発生。近年、ゲリラ豪雨が多発するなど雨の降り方が従来とは明らかに変わってきており、このような降雨状況に伴って甚大な土砂災害も頻発している。松四さんは広島、紀伊半島、伊豆大島など大規模な斜面災害発生現場の調査結果を具体的に示しながら、斜面災害についてわかりやすく解説した。

 斜面が一瞬にして崩れ落ちる斜面崩壊には、斜面表層の薄い土層が崩れる「表層崩壊」と土層の下部の岩盤が崩れる「深層崩壊」に分けられる。崩壊した土砂が水と混ざって流動化し、渓流の土石を巻き込みながら流下すると土石流となり、斜面ふもとの人家等にまで到達して大災害を引き起こす。

 松四さんは、表層崩壊と深層崩壊の違いを「数と規模の違い」と指摘した。つまり、表層崩壊は短時間の強い雨で発生し、1度の降雨で何百か所も崩壊することがある。一方の深層崩壊は長く多い雨で発生し、1度に起こるのは数十か所以下。ただし、深層崩壊は表層崩壊の1万倍にもなるなど規模が圧倒的に大きく、崩れ落ちた土砂が河川をせき止め(河道閉塞)、大規模な天然ダムを形成するなど複合的な災害を引き起こす。

 「表層崩壊になるか、深層崩壊になるかは地形と地質で決まる」とした松四さん。「自分が住んでいる場所の地盤の特性を理解し、起こりうる現状に対して具体的なイメージをもって備えることが重要だ」と強調。行政による公助には限界があることから、「減災を実現するためには、個人や地域社会が過去の事例に学び、自助・共助できる地力をつける必要がある」と提言した。

 松四さんの話で印象的だったのは、地震計の有用さだ。長野県南木曽町の土石流や、奈良県十津川村の長殿発電所を壊滅させた深層崩壊では、いずれも付近に設置された地震計が災害発生の瞬間を捕捉していた。こうした地震計や衛星による観測が応急対策に用いられれば、夜間、無人の場所でも、どのような事象が発生しているのか予測することが可能という。会場からの「公助の役割は何か」との質問に応じた松四さんは、こうした地震計等の積極活用を挙げた。確かに、地震国日本では全国に多くの地震計が設置されている。地震災害だけでなく、斜面災害にも役立てられるとすれば活用用途は俄然広がるはずだ。

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「災害リスク・コミュニケーションの新しいかたち」が求められている

 第2回は12日、京都大学防災研究所の矢守克也教授が「災害リスク・コミュニケーションの新しいかたち―想定を活かすために―」と題して話した。社会心理学、防災心理学が専門の矢守さんは、危険な自然現象そのものを研究するのとは異なり、災害に向き合う人間社会の諸問題を研究していると自身の立場を明らかにしたうえで、災害リスク・コミュニケーションの必要性について語った。

 南海トラフ巨大地震の被害想定が出た。被災地になると予測されている地域に住む人々はこれをどう受け止めたのか。深刻な被害に「対策を進めなければ」と考える人もいれば、被害のあまりの巨大さに「何をしてもダメだ」と無力感を覚えてしまう人もいる。もちろん、被害想定は防災・減災対策の充実に役立ててもらおうと公表されている。ところが、想定を知ってしまったことで却って諦めの感情を抱いてしまう人が現れる。人の受け止め方は一筋縄ではいかない。「場合によっては想定そのものがリスクになるケースもある。だからこそ災害リスク・コミュニケーションが必要だ」と矢守さん。

 矢守さんは、リスク・コミュニケーションの具体的な手法のひとつとして、阪神・淡路大震災の教訓を盛り込んで開発した防災ゲーム「クロスロード」を紹介した。クロスロードとは「判断の分かれ道」の意味、災害時に実際に発生した問題を提示して「あなたはどちらを選択する?」と問いかけるゲームだ。

 例えば、「あなたは病院スタッフ。災害時に入院患者を他の施設に移送しようと大わらわの際、報道カメラマンが撮影に現れた。あなたは撮影させる?」といった問題に各人がYES、NOで答える。災害時にはマニュアルには書いていないことが起こる。正解がない問題にも次々と直面する。クロスロードは「その時、その場で皆で正解を作った」という阪神・淡路大震災を経験した神戸市職員の言葉をヒントに開発された。ゲーム参加者はそれぞれ異なる意見や価値観を話し合い、災害時に起こりうる問題を事前に自分の問題として具体的に考えることを学ぶ。

 このほか、高知県四万十町興津地区で実践している津波避難等に関するさまざまな取り組みを紹介し、被害想定に接して諦めの気持ちを抱いた高齢者が「命を守るために避難訓練に参加する」ようになった実例も紹介した矢守さん。「何かやれば必ず効果は表れる。そういう取り組みを継続することが重要だ」と話した。

 防災が必要だという。減災を目指すという。人は誰しも大災害を生き延びたいと願う。でも、何のために、誰のために、人は生き延びたいと願うのだろう。生きるとは、命とは、家族とは――。矢守さんの提示した事例の数々は、それこそ正解のない根源的な問いかけに満ちていた。