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火山灰対策ー火山防災を考える(5)

2015.01.17

 昨年から続けてきた火山防災を考えるシリーズの最終回として、今回は「火山灰」について考える。自宅のある場所が火山から遠く離れているからといって、火山災害と無関係ではいられない。火口からの距離が遠ければ溶岩流や噴石の被害に遭う可能性は低くなるだろうが、細かくて軽い火山灰は風に乗って遠隔地にも降り注ぐ。降灰は広範囲に被害が拡大する分、対処が難しく、やっかいな問題になりうる。

降灰被害は社会生活のあらゆる面に及ぶ

 火山灰が降り積もった場合の被害とは具体的にどのようなものだろうか。「農作物が不作になる?」「吸い込んだら体に悪い?」くらいは想像がつくが、調べてみると、ことはそれほど単純ではない。それこそ社会生活のあらゆる場面に深刻な悪影響を及ぼす大問題に発展する可能性がある。

 気象庁の「降灰予報の高度化に向けた検討会」会議資料や内閣府の「大規模火山災害対策への提言」参考資料などによると、降灰の影響は「交通」「ライフライン」「2・3次産業」「農林水産」「健康」「生活」などの各方面に及ぶ。

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 具体的には、1日の降灰が5センチを超えると道路は通行不能になる。有珠山の噴火では、降雨時に5ミリの灰が積もって車がスリップし、通行不能になった。つまり雨が降っていると、1日5ミリの降灰でも除灰作業にあたる車が動けなくなり、結果として道路が利用できなくなる可能性がある。鉄道も5ミリの降灰で信号誤作動の恐れがあり、運行停止に陥る。航空機のエンジンは特に火山灰に弱い。大気中の火山灰を吸い込めばエンジンが損傷して最悪停止するため、降灰がある範囲では航空機は運航できない。

 降雨時には電力への影響も大きく、1センチ以上の降灰がある範囲では18%が停電する。平成2年の阿蘇山噴火では、湿った火山灰が電柱上のトランス(変圧器)に付着してショート、地元の町で約3,700戸が停電した。水道も浄水場の沈澱池の能力を超えて火山灰が流入すれば給水できなくなる。6ミリ程度の降灰で水質が低下した例がある。

 1980年の米国・セントへレンズ火山噴火では降灰の厚さと商店の休業日数について報告があり、商業活動が普段の状態に戻るまでに1.3ミリの降灰では5日間、1.3センチでは8日間かかった。農作物はシビアに影響を受け、5ミリの降灰で稲作が、2センチで畑作ができなくなる。桜島の事例では、作物の種類により壊滅的な被害になる降灰量は、麦で1センチ、野菜で3センチ、果樹で1.5センチだった。1707年の富士山噴火では15センチの降灰があり、翌年は作物がまったく収穫できなかった。

 降灰量が増えると、木造家屋が壊れる危険性が高まる。雨が降って火山灰が重量を増した場合、1日30センチの降灰で木造家屋の全壊が想定される。

富士山が噴火すれば首都圏でも2センチ以上の降灰

 肝心の人体への影響はどうか。前述資料によると、1977年の有珠山では、降灰2センチ以上の地域で目・鼻・喉・気管支の異常等が報告された。90~95年の雲仙普賢岳では、島原市民の66%が健康面に影響を受け、そのうち目の痛みは8割、喉の異常は6割が経験した。セントへレンズの事例では、慢性的な肺の疾患をもつ人は1.3ミリの降灰で健康上の問題が増加する懸念が高まり、1.3センチで喉の腫れ、気管支炎など呼吸器の症状を訴える患者が普段の50%増加した。

 このような降灰は実際問題として起こりうるのだろうか。数字だけを見ても実感は得にくいから、富士山が噴火した場合の被害想定を見てみよう。富士山火山防災協議会が発行した「富士山火山防災マップ」は、富士山噴火時の降灰分布図を紹介している。これによると、火山灰は風に乗って山の東方向に広がり、房総半島にまで到達する。東京23区でも2~10センチの降灰が堆積する可能性がある。2センチ程度の降灰は、少なくとも首都圏ではありうる話なわけだ。

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 降灰があった場合の対処法に特別なことはない。「降灰への備え」(防災科学技術研究所)によると、降灰の前にはドアや窓を閉め、すきま風が入らないように濡れたタオルやテープで目張りするなど対策する。降灰中は屋内にとどまり、マスクやハンカチで鼻と口を覆って火山灰を吸入しないように努めることなどが効果的という。

 大規模な火山噴火が発生すると、社会は大きな影響を受ける。被害を最小限に抑えるため、私たち自身にできることは何か。インターネットなどを活用して、まずは火山について学ぶことから始めよう。