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過去の発生事例―理解し、備える土砂災害(2)

2014.09.30

 前回も少々触れたが、国土交通省砂防部は8月29日、昭和20年以降の人的被害が大きかった土砂災害一覧を公表し、今回の広島市の土砂災害が過去30年間で最大規模であると指摘した。この表は、水害など土砂災害以外の死者・行方不明者を含んでいるものもあること、地震や火山による土砂災害は除かれていること、台風等で広域に発生した災害は各地の被害者数の合計であることなどに注意が必要だが、土砂災害によって多くの人命が奪われていることが理解できる。

 土砂災害の発生要因は「豪雨」「地震」「火山」の3つに大きく分けられる。今回は、これらの要因別に過去の特徴的な土砂災害を振り返ってみる。

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豪雨

 豪雨は台風や活発な前線活動によってもたらされることが多い。なかでも台風は移動しながら広域にわたって被害をもたらすため、人的被害が拡大しやすいことが上記表からも分かる。

 昭和20年9月、終戦直後に発生した枕崎台風は、鹿児島県枕崎市付近に上陸し、九州、四国、近畿、北陸、東北地方と列島を縦断した。広島県呉市では、いたるところで土石流が発生。原爆被害調査のために同県内の病院で活動していた京都大学の調査班や入院被爆者などの生命が奪われ、原爆調査は中断された。終戦後間もない時期で、気象情報も少なく、防災体制も十分でなかったため各地で大きな被害が発生した。

 昭和33年9月の台風22号は狩野川台風として知られる。特に静岡県伊豆地方に大きな被害をもたらした。伊豆の狩野川上流では各地で山崩れ、土石流が発生した。旧修善寺町では上流からの流木と土砂が濁流とともに押し寄せて修善寺中学校校舎を襲い、同校に身を寄せていた被災者もろとも押し流した。伊豆地方だけで1,000人を超える死者を数えた。

 長崎市を襲った昭和57年7月の長崎豪雨。豪雨は一気に河川や低地に押し寄せた。土砂災害は市街地周辺の斜面を開発した住宅地に集中、土地利用を山地と谷間に求める都市開発の問題点を浮き彫りにした。同災害をきっかけに、これまで中心だったハード対策に加え、土石流危険渓流の周知、警戒避難体制の整備、住宅の移転促進を柱とする総合的な土石流対策が展開され始めた。

 平成11年6月の梅雨前線による豪雨は、広島市や呉市に大規模な土砂災害をもたらした。6月23日の降り始めから断続的に続いた雨は、29日に雷を伴った激しい雨となって数時間にわたって降り続き、この雨が引き金となって山崩れ、がけ崩れ、河川の氾濫、土石流等が多発。開発で急速に宅地化が進んだ丘陵地に被害が集中した。土砂災害発生のおそれがある区域を指定し、避難態勢の整備や開発行為の制限などを定めた土砂災害防止法が制定されるきっかけになった。同災害を経験しながら、今回広島市で被害は繰り返された。

地震

 地震によっても土砂災害は引き起こされる。史上最悪の災害だった1923(大正12)年9月の関東大震災では、都市部では延焼による被害、中山間地域では土砂災害による被害が多かった。土砂災害は震源に近かった箱根や丹沢で多発したほか、三浦半島や房総半島などの広範囲で、また横浜、横須賀、鎌倉などの市街地周辺でも発生した。死者は700~800人に達したという(中央防災会議編『災害史に学ぶ(海溝型地震・津波編)』)。丹沢山地では、地震発生2週間後の集中豪雨で崩壊土砂が土石流となって流下したことが知られている。

 平成16年10月の新潟県中越地震でも土砂災害が多発した。同県には、第三紀層という新しい地質年代の脆弱な地層が広く分布し、土砂災害危険箇所の多さは全国有数だ。国土交通省によると、同地震により芋川流域内では斜面崩壊が1,419か所、地すべりが75か所、土砂による河道閉塞(天然ダム)が55か所で生じたという。脆弱な地層が震度7を観測した強烈な揺れに見舞われたこと、地震発生直前に台風23号による降雨によって地下水位が高い状態にあったことなどが土砂災害の多発につながったと考えられている。このほか、甚大な津波被害の陰で見落とされがちだが、平成23年3月の東日本大震災でも12県で141件の土砂災害が発生し、19人の尊い命が失われている。

 地震による土砂災害は、揺れによる直接的な斜面崩壊などばかりではない。地盤の状態が変わることによって、その後に大雨が降れば土砂災害発生の危険性が増す。

火山

 長野、岐阜の県境にまたがる御嶽山が噴火し、登山客などに多数の犠牲者が出ている。国土交通省は28日、土砂災害防止法に基づく上空からの緊急調査を実施した。メディアによると、調査チームは降灰が山頂から東側へ約5キロ、幅が南北1.5~2キロの範囲で広がっていることを目視。降灰の厚さは土石流が起きやすくなるとされる1センチ未満とみられ、通常より少ない雨で住宅に被害が出る土石流などが起こる確率は低いという。

 火山の噴火によって発生する土砂移動現象には、火山泥流、溶岩流、火砕流といった火山噴火に特有な土砂災害に加え、火山灰が堆積した後の降水による土石流、火山活動に伴う地震等による山体崩壊といった現象がある。集中豪雨による土砂災害に比べ、影響が激甚かつ広範囲にわたり、長期間継続する場合も多い。

 1990年に始まった雲仙普賢岳の噴火では、91年6月3日にやや規模の大きな火砕流が発生、島原市で死者・行方不明者43人の被害があった。95年に収束するまでに家屋の被害は2,511棟に上り、その過半数が土石流によるもの、残りは火砕流による焼失だった。今回の御嶽山の噴火による人的被害発生は、この普賢岳の火砕流以来の惨事だ。