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災害時の従業員用備蓄「3日以上」の事業所は約半数―東京都の帰宅困難者対策調査

2014.05.31

 都市部で大規模災害が発生した際、懸念されるのが膨大な帰宅困難者の発生だ。実際に、東日本大震災では首都圏で515万人が帰宅困難者になったと推定されており(内閣府)、今後起こりうる首都直下地震の場合には都内で最大517万人の帰宅困難者が生じると想定されている(東京都)。

 交通機関がストップして都心の駅周辺や路上に帰宅困難者があふれたらどうなるか。集団転倒や火災に巻き込まれる恐れがあるから、何より帰宅困難者の身が危険にさらされる。また、道路が人で埋め尽くされて、救助や消火、緊急輸送などの応急活動に支障が出かねない。迅速な応急対策ができなければ、東京は大混乱に陥ってしまうだろう。

 こうした事態を回避するため、東京都は昨年4月、大規模災害時の一斉帰宅の抑制などを柱とする「東京都帰宅困難対策条例」を施行し、首都直下地震をにらんだ帰宅困難者対策を進めてきた。特に事業所に対しては、「施設の安全を確保して従業員を事業所内にとどまらせる」「そのために必要な3日分の水や食料を備蓄する」などの対策を求めてきた。

 条例施行1年が経過し、都はこの間の事業所の取り組み状況等を確認するため、都内事業所の帰宅困難者対策実態調査を実施し、事業継続計画の策定状況、備蓄の状況などを聞いた。事業継続計画の策定については理解が進む一方で、都が求める3日分以上の備蓄をしている事業所は全体のおよそ半数にとどまった。調査は、従業者30人以上の都内5,000事業所が対象、有効回答率は47.4%だった。

備蓄していない理由1位は「スペース確保が難しい」

 調査結果によると、災害時の事業継続計画を「策定済み」の事業所は全体の約6割。「策定するか検討中」は20.9%で、「未策定」は17.2%だった。東日本大震災と都条例制定が計画策定のきっかけになった事業所も多かった。

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 従業員用の「飲料水」「食料品」は「3日分」備蓄する事業所が最も多く、「4日分以上」も含めて都の要請レベルを満たしている割合はそれぞれ49.8%、49.2%とおよそ半数だった。ただし、備蓄自体をしていない事業所もそれぞれ18.1%、23.1%あった。水・食料に比べて「災害用トイレ」の備蓄割合は低く、1日分以上の備蓄があるのは53%、 「備蓄はない」が42%だった。「毛布」についても「備蓄はない」は42%だった。

 備蓄していない事業所にその理由を尋ねたところ、「保管スペースを確保することが難しい」が35.5%と最も多かった。「購入費用を確保することが難しい」「保管作業や更新等の負担費用が多額」とコスト的な理由は合わせて25.7%だった。

 備蓄量の目安として都が示しているのは、「飲料水1人1日3リットルの計9リットル」「主食1人あたり1日3食の計9食」「毛布1人当たり1枚」など。具体的な備蓄品として、水は「ペットボトル入りの飲料水」、主食は「アルファ化米、クラッカー、乾パン」などを例示している。これらは「努力義務」として、従業員規模にかかわらずすべての事業所に求められている。規模の小さな事業所では特に、保管場所やコストの問題はより負担に感じられるだろう。実際、「備蓄はない」とした回答数346件のうち、従業員規模30?49人の事業所は124件、50?99人の事業所は105件を占めた。

 さらに都は、従業員向けに加え、施設利用者や外部の帰宅困難者向けにも10%程度余分に備蓄するよう呼びかけているが、これを実行している事業所は25.1%にとどまり、用意していない事業所が65.1%と過半数を占めた。災害時に事業所施設の利用者(顧客など)も受け入れられるかどうかについては、「受け入れは難しい」が42.1%と半数に迫り、「受け入れる可能性がある」31.2%を上回った。

しっかりした事業継続計画の有無がポイント

 調査では、従業員の安全確保についても、いくつかの角度から聞いている。災害時における従業員の安否確認手段は「メール」が51%と最も多く、「通話」46%、「独自に整備した安否確認システム」41.5%、「災害用伝言サービス」33.7%などの順だった(複数回答)。また、従業員に対して家族との安否確認手段を確保するよう周知しているかどうかについては、「災害用伝言サービス等、通話によらない手段を確保するよう周知している」が38.8%、「特に手段は定めていないが周知している」29.8%、「周知はしていない」22.2%、「電話で連絡を取るように周知している」7.2%だった。

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 東日本大震災では、電話がかかりにくかったり、メールが届きにくかったりして、家族などとの連絡が大規模災害時の課題として大きく注目された。それを教訓にしたのだろう。安否確認システムを独自に整備している事業所も半数近い。しかし、従業員と家族の安否確認については、周知していない事業所があったり、電話での連絡を周知したりするなど不十分な対応の回答も一部ある(この設問は複数回答ではなく、択一方式)。

 事業継続計画が実効性をあげるためには、事業所内における従業員の安全確保は当然のこととして、その従業員が家族の安否を確実に知りうることも重要だ。家族の安否が不明なままでは、従業員の帰宅を抑制できない事態もありうる。また、従業員が災害時の事業継続に力を発揮するためには、何より家族を災害で失わないことが最大のポイントだからだ。

 今回の調査結果を見ると、災害時の帰宅困難者対策と事業所の生き残りを懸けた事業継続対策は決して別物ではないことがわかる。従業員向けの備蓄の状況と同様に、事業継続計画の策定、従業員と家族の安否確認手段の周知のいずれについても、従業員規模が小さくなるほどいわば成績が悪いのは、これらが密接に関連していることを示している。

 何も「規模が小さい」イコール「防災意識が低い」ということではない。そうではなく、事業継続計画を策定している事業所ほど、「家族を含めて従業員を守る」という決意と取り組みを実践していることを示唆しているだろうということだ。コスト面など現実的な問題があり、計画を策定している事業所はおそらく経営的により安定しているだろう規模が大きい事業所に多くなっているが、規模が小さくとも事業継続計画を策定している事業所も当然存在する。

 問題の本質は、事業所規模ではなく、しっかりした事業継続計画の有無にある。事業所にとっての「自助」とは何か。それを教えてくれる調査結果ではある。