1. ホーム
  2. レポート
  3. 防災の現場
  4. ガイドライン見直しで改めて考える避難に関する情報の取り扱い

ガイドライン見直しで改めて考える避難に関する情報の取り扱い

2013.11.30

伊豆大島の土石流災害をきっかけにガイドライン見直しへ

死者・行方不明者39人を数えた伊豆大島の台風26号による土石流災害は、避難に関する情報を取り扱うことの難しさを改めて示した。島しょ部という理由から新設された特別警報こそ出されなかったものの、土砂災害が発生する恐れが高まったことを示す「土砂災害警戒情報」は発表されていた。大島町は土砂災害警戒情報が発表された際には自主避難を促すなどと取り決めていたが、不幸な行き違いが重なり同情報に気づくのに遅れ、結果として町は避難勧告などの発令を見送った。

町役場に対する批判は大きかった。避難勧告を出さなかったために被害が拡大したのではないか、地域防災計画に土砂災害警戒情報の活用がうたわれていながら実際に活用されなかったのは怠慢だといった批判だ。確かに町の対応には不手際もあったが、この災害は避難勧告を発令することの難しさを示す事例にもなった。事態を重視した内閣府は、2005年に策定した「避難勧告の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」を年度内に見直すことを決めた。何が問題だったのか、あらためて振り返ってみる。

職員が一時帰宅で不在中に土砂災害警戒情報発表のファクス届く

一連の報道などを総合すると、台風26号が大島町を通過した10月15日午後から16日朝にかけての役場等の動向は次のようなものだった。

〇町の地域防災計画は、土砂災害警戒情報が発表された場合、住民に自主避難を呼びかけ、町としても避難勧告を出すかどうか判断すると定めていた。

〇避難勧告を出す権限のある町長は出張で不在だった。町総務課長は15日午後4時過ぎ、町長に電話し、16日午前2時に職員を町役場に待機させる「非常配備態勢」を取ることを確認した。

〇15日午後6時5分、気象庁は東京都と共同で大島町に最初の土砂災害警戒情報を発表した。その後16日夜明けにかけて、土砂災害警戒情報を4回、記録的短時間大雨情報を3回出した。東京都は土砂災害警戒情報の発表内容を町総務課に防災用ファクスで送信したが、受信確認が取れない。不審に思った都の担当者が約1時間後に町総務課に電話連絡するもつながらなかった。

〇町役場の担当者は、16日未明の台風接近に備え、15日午後5時半ごろから一斉帰宅していた。都のファクスに気づいたのは16日午前0時ごろ再登庁した総務課長だった。すでに外は1時間あたり50ミリ以上の豪雨だった。

〇16日午前2時過ぎ、町役場にがけ崩れの一報が入る。その後、出張先の町長に電話連絡するが、「夜間、大雨のなかの避難は逆に危険がある」との判断が示され、避難勧告などは出されなかった。

再登庁のためとはいえ担当者不在の時間が発生した職員配置態勢や、都と町の間の情報の伝達方法に甘さがあったのは確かだろう。これら今回の大島町の災害事例に特徴的な問題点は早急に改善すべきだ。ただ、土砂災害警戒情報と避難の判断をどうつなげるかなど、大島町だけに限らない課題もあった。このあたりはガイドラインの見直しとも関連する部分だ。

土砂災害警戒情報などを避難の判断に関連づけていないガイドライン

ここまでに登場したいくつかの用語について、確認しておく必要があるだろう。まず、「避難勧告の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」だが、これは内閣府の「集中豪雨時等における情報伝達及び高齢者等の避難支援に関する検討会」が2005年3月に策定した、市区町村向けのマニュアル作成の手引きである。前年の2004年に頻発した水害や土砂災害において、避難勧告等が適切に発令されず、住民の避難が十分でなく大きな被害を出したことを反省して取りまとめられた。水害、高潮、土砂災害について、市区町村は具体的な発令基準に基づき避難勧告等を発令するよう求める内容となっている。

「記録的短時間大雨情報」とは、気象庁が大雨警報発表時に「現在の降雨がその地域にとって災害の発生につながるような、稀にしか観測しない雨量であることを知らせるために発表する」としており、1983年に導入されている。また「土砂災害警戒情報」は前述したように、大雨警報発表中に「土砂災害の危険性が高まった場合」に気象庁と都道府県が共同で発表する情報で、全国で運用されるようになったのは2008年からだ。

10月15日夜から16日夜明けにかけて大島町でたびたび発表されたこの2つの情報だが、先のガイドラインのなかに明確な記述がない。当然今年から始まった特別警報についても書かれていない。ガイドラインは降水量に基づいて発令基準を定めるように促してはいるが、こうした気象情報を避難勧告等の判断にどう位置づけるかは言及しておらず、市区町村としては気象情報をどう活用するべきか戸惑うだろう。また日中と夜間で、避難勧告等の発令をどう考えるかについても触れられていない。そこで内閣府としては、ガイドラインの内容を更新することにしたわけだ。

ガイドラインが更新されても課題は続く

大島町の場合は、もう一点問題があった。それは、ガイドラインが求める発令基準を定めていなかったことだ。ガイドライン策定から8年が経過するが、総務省消防庁の調べによると、昨年11月段階で雨量などの発令基準を策定しているのは、土砂災害が想定される全国1604市区町村のうち73.2%の1174自治体だった。被害を教訓に、町は今後気象庁などと協議して具体的な雨量基準を定めることとし、作業を始めている。具体的な基準を定めておけば、ある意味機械的に避難勧告等を出すことができる。ガイドラインの見直しでも、土砂災害警戒情報などの気象情報をどの程度客観的な指標として盛り込むのか注目されるところだ。

ガイドラインの内容が充実されることは、市区町村の避難勧告などの判断に大いに役立つだろう。しかし、ガイドラインが充実されることが即、避難行動をする人の増加につながるかというと楽観できない。過去の各種調査でも、避難勧告等が発令されながら実際に避難をする人が少ないというのは何度も指摘されてきた。最近では、昨年6?7月の梅雨前線による大雨で水害で被災した地域を対象にした内閣府の調査がある(今年2月発表)。

同調査では、災害が発生したとき、「避難準備情報」「避難勧告」「避難指示」の違いを「ある程度知っていた」と回答したのは53%にとどまっていた。また、避難勧告、避難指示を見聞きしてとった行動は、市内全域に避難勧告が発令された岐阜県可児市で「自宅にとどまった」が68.9%と最多で、「避難のための準備を開始した」のはわずか6.7%にすぎなかった。自宅にとどまった理由は【表】の通りだ。大方は危険の中での避難を避けたと判断しているが、4割近くが自分が被害を受けるとは思わなかったと回答している。この回答が妥当なケースも多いだろうから即断はできないが、避難勧告等の発令と実際に「立ち退き避難」するかは必ずしも結びつかない。

20131130_01.jpg

どれだけガイドラインに避難勧告の判断基準を事細かに定めたところで、住民の防災意識が高くなければ、最終的な減災効果は期待できないだろう。ガイドラインを整備し、マニュアルを策定しただけでは済まないのだ。やはり防災行政としては、住民の防災意識を高める方向の各種施策を地道に取り組む必要がある。そして私たち住民は、土砂災害の危険を自己判断して、危険を遠ざけることができるようにならなければならない。