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フィリピンを襲った台風30号は「異常気象の結果」として強大化

2013.11.15

東日本大震災と重なる惨状、被害の全体像把握にはなお時間が

バラバラに破壊された人家、がれきの上に打ち上げられた巨大船舶――。今月8日、台風30号が直撃したフィリピン・レイテ島に広がった惨状は東日本大震災の津波被災地と重なって見えた。圧倒的な自然の力が人々の生活空間をかすめ、私たちにまたも哀しい既視感を抱かせた。

甚大な台風被害があったことは間違いないが、被害の全体像はいまだ把握できていない。報道によると、ベニグノ・アキノ大統領は12日、死者は2000?2500人に上るとの見方を示した。29の自治体といまだ連絡が取れていない現状も同時に明らかにし、正確な犠牲者数の把握には時間がかかるとした。11日のフィリピン政府の発表では、全国で総人口の1割に当たる約967万人が被災した。国連人道問題調整事務所は14日、フィリピン政府からの報告として、同国における死者は4460人になったと発表した。避難者は約92万1200人、家屋損壊は24万3600戸に上るという。農業やライフラインへの被害も極めて深刻だ。フィリピンを通過した同台風はベトナム、中国でも尊い人命を奪った。

上陸した台風としては観測史上最大

台風30号は凄まじく強大で、中心気圧は895ヘクトパスカル、中心付近の風速は65m、最大瞬間風速は90mという勢力を示した。これは気象庁の観測だが、米軍合同台風警報センターの分析によると、8日朝の時点で最大風速87.5m、瞬間最大風速105mだったという。AFP通信は、これは風力で見ると観測史上4番目であり、上陸した台風としては1969年に米ミシシッピ州を襲ったハリケーン・カミールの84.7mを上回って観測史上最大だったと伝えた。風速105mは時速換算で378km、F1レースの最高速度に匹敵する風が吹き荒れたということだ。台風の通過を耐えた被災者は想像を絶する恐怖だったに違いない。

気象庁の定義では、台風とは熱帯の海上で発生する「熱帯低気圧」のうち、「北西太平洋(赤道より北で東経180度より西の領域)または南シナ海に存在し、なおかつ低気圧域内の最大風速(10分間平均)がおよそ17m/秒(34ノット、風力8)以上のもの」のことをいう(国際分類におけるタイフーンは1分間平均の最大風速が64ノット以上のものを指す)。熱帯低気圧の呼び名は発生場所によって異なり、米国など北東太平洋・大西洋ではハリケーン、日本など北西太平洋では台風(タイフーン)、インド洋・南太平洋ではサイクロンと呼んでいる。

フィリピンは日本同様に災害が多い

フィリピンにおける自然災害としては、1991年のルソン島・ピナトゥボ山の噴火が20世紀最大規模の火山噴火としてよく知られる。噴火によって降り積もった大量の火山灰は、折悪しく襲来した台風による大雨でその重量を増し、4万2000戸の人家を押し潰した。幸いなことに事前避難が奏功し、人的被害は比較的少なかった。日本と同様に環太平洋火山帯に含まれ、火山活動が活発で地震も多い。先月もフィリピン中部のボホール島を震源とするマグニチュード7.2の地震があり、200人を超える犠牲者を出したばかりだ。

また、1960年代から始まった大規模な開発による森林の減少は、山の保水力を奪い、地滑りなどの土砂災害が頻発してい。日本と同様に台風の通り道になっているうえ、台風は赤道直下の温暖な海によって勢力を保ったまま移動する。台風に直撃されて大雨が降れば被害は大きくなりやすい。

今回の台風30号でも、地元レイテ州の警察当局は当初、死者が1万人に上る怖れを指摘している。狂ったような暴風だけでなく、人口が集中した沿岸部を数メートルの高潮が襲ったからだ。現地では津波被災地のように船舶が集落に乗り上げているが、このように被害を拡大した原因は高潮だとみられている。気圧が1ヘクトパスカル下がれば、海面を1センチ持ち上げる。勢力が強い分、海面の上昇幅も大きかったはずだ。

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高潮という自然災害は、津波と並んで膨大な数の人命を奪う。20世紀以降で最大の人的被害を出した災害は、1970年にバングラデシュ(当時は東パキスタンと呼ばれ、インドを挟んでパキスタンの飛び地だった)で発生したサイクロンと高潮だ【表】。この年、ベンガル湾で発生したサイクロンによる高潮で沿岸の島々が浸水し、50万人という桁外れの犠牲者を出した。この災害の救助活動に当時のパキスタン政府が消極的だとして独立戦争が勃発、バングラデシュがパキスタンから独立するきっかけになった災害だった。このほかにも、1991年のバングラデシュ、2008年のミャンマーと、高潮はひとたび広範囲で発生すれば10万を超える人命を瞬時に奪い去っていく。

地球温暖化が「スーパー台風」を生んでいる

台風は海面の温度が28度以上だと発生しやすく、時間の経過とともに移動しても海面の温度が高ければ勢力は衰えにくい。近年、発生する台風が強大化しているという指摘があり、海面の温度との関係から地球温暖化の影響があるのではないかと言われている。今回の台風30号も「スーパー台風」と呼ぶメディアがあった。メディアではこのところ強大な台風をこのように称するケースが増えてきた。これは気象庁の予報用語にはなく、米軍合同台風警報センターが風速67m以上のものを「スーパータイフーン」と特に分類していることに由来しているという。

奇しくもポーランドのワルシャワで開催中の第19回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP19)で11日、フィリピン政府のナデレブ・サニョ代表は温暖化対策の具体的な進展を訴えてハンガーストライキに入った。CNNは「我が国は異常気象の結果として大惨事に見舞われた」とするサニョ代表の言葉を伝えている。ワースト10の表のうち、21世紀に入ってからの災害が4つも含まれていることに不気味さを感じる。この表は、今後たびたび書き換えられることになりはしないか。

海面温度が高ければ台風の勢力が増す。台風の勢力が増せば、暴風はより強く吹き、気圧は低くなる。気圧が低くなれば台風による海面上昇が高まり、より強くなった風は強烈に波を陸に吹き寄せる。その結果、高潮の被害も大きくなる。「風が吹けば桶屋が儲かる」といったのどかな時代は過ぎた。今や風は、桶屋どころか人間社会そのものをも吹き飛ばしてしまいそうな勢いで強大化しつつある。