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新型インフルエンザに備える「食」の知恵ーー災害時に備えた食生活を教える絵本が誕生

2011.01.27

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強毒性のH5N1鳥インフルエンザの脅威は去っていない

2009年3月に、メキシコを起点に世界的な流行をきたした新型インフルエンザ。世界保健機関(WHO)が今年の8月、新型インフルエンザの世界的大流行の終息を宣言しました。国内では、大流行に備えて政府をはじめ都道府県や市区町村が設置した対策本部も、新型インフルエンザの終に伴い、現在では次々と廃止されています。

しかし、新型インフルエンザは変異して強毒性のインフルエンザとなる可能性があります。また、季節性インフルエンザであっても、子どもや高齢者、妊産婦などハイリスクの人たちにとっては、従来通りいのちの危険を伴っています。さらに注視しておかなければならないのは、インドネシアにおいて強毒性のH5N1鳥インフルエンザにより、100人以上の死亡が報告されていることです。インドネシアのほかは、インドとエジプトでH5N1鳥インフルエンザによる死亡が確認されています。まだ発生地域が限られていますが、大流行にならないとは限りません。H5N1鳥インフルエンザの脅威が去っていないことを肝に銘じておきましょう。

新型インフルエンザを題材に食事づくりをテーマにした絵本を発行

新型インフルエンザが流行した昨年は、若年層の感染が注目されていました。小学生が感染し、その両親も感染して家族中が新型インフルエンザに罹ったという話を耳にしたものです。

また、小さな子どもがいる家庭では、その親が寝込んでしまったときには誰がごはんを作るのか、買い物に出掛けることも困難になってしまうのではないか、と懸念されていました。

こうした世間の声に応えるかたちで、2009年11月に、現代食文化・調理科学などの専門家として、また阪神・淡路大震災の被災経験者として、災害時の食のあり様について研究している甲南女子大学名誉教授の奥田和子さんが、『新型インフルエンザがやってきた! あなたもお手伝いしてね』と題した、食事づくりをテーマにした絵本を発行しました。

奥田さんによると、災害時に家庭内のありあわせの材料で工夫して料理するという内容の本はこれまでにもありました。しかし、日常生活のなかで、災害を想定して食生活を管理していこうというコンセプトの本は奥田さんの知る限りではなかったといいます。

この本のコンセプト自体は、阪神・淡路大震災のときに周囲で見聞きしたことが発端となったといいます。

「被災した一人暮らしの男性や年老いた男性は、食べるすべを失い、災害弱者になってしまいました。これまですべて配偶者や親などにまかせきりにしてきた結果です。災害時には生活体験が豊富な人だけが何とかあり合わせの食材で創意工夫して食べるものを確保できたわけです」と、奥田さんは話します。

子どもを対象にしているが料理未経験の大人も役立つ内容に

絵本として出版することになったきっかけは、奥田さんが参加している関西の医師、産業医、企業の看護師など危機管理の関係者が集まる「関西新型インフルエンザ勉強会」のメーリングリストでした。新型インフルエンザの危険性を学ぶ中で、絵本づくりを思い立ったといいます。

「たまたま子どもを対象にしていますが、社会の機能がストップしたときに、誰もが食事をつくり、健康を維持できるのか大変疑問です。そういう危機意識がどれほどもたれているでしょうか」と、奥田さんは警鐘を鳴らします。

なぜなら、新型インフルエンザ患者は外出が制限される上、近所での助け合いも難しく、新型インフルエンザの場合の食生活は「家ごもり家庭内食」になります。炊き出しや援助物資をもらったらいいという発想でいたら、食事にありつけないという、とんでもないことになりかねないというわけです。

絵本の内容は、料理の前の「手のあらい方」から始まり、包丁やまな板、ごはんしゃもじなど料理に使う道具や調味料がどこに置いてあるのか、また電気製品などの使い方、おかゆや野菜スープといった比較的簡単な料理の作り方、ゴミの分け方、皿や鍋の洗い方、料理を作る際に火を使う上での注意など、子どもに対して、イラストを使って丁寧にわかりやすく、全ページにわたって工夫を凝らしています。絵本仕立てになっていますが、料理未経験者の大人にも役立つ内容といっても過言ではありません。

中でも、脱水症状を呈した場合に備え、「てんてき(スポーツドリンク)」のつくり方も紹介するなど、不測の事態を想定した内容も漏らさず掲載しています。

災害時は「食事」に最もひずみが出る

奥田さんは、「災害では、食事というところに最もひずみが出てきます。これは新型インフルエンザも同様です。何を食べるか、どう作るか、子どももわからない。若者もわからない。寝る、食べるという人間の活動の基本的なところをおろそかにすると大変な目に遭うと警告したい」と語ります。

本は自費出版で、約1000部作ったといいます。講習会などで紹介したところ、思いのほかよく売れたとのこと。購入者からは、「料理ができない夫に読ませたい」「一人暮らしの親せきの若者に読ませたい」といった声を耳にしたといいます。奥田さんは、「子どもばかりでなく、生活を妻や母親など女性に依存している人たちは想像以上に多いと実感しました」と話します。

食生活を奥さんなどにまかせっきりになっている男性は、皆さんのまわりに結構いるはずです。災害時に、しっかりと必要な食事を確保するためにも、食の自立を促すオススメの一冊といえるのではないでしょうか。

絵本:新型インフルエンザに備える「食」の知恵