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食物アレルギーの子どもたちの防災対策

2009.02.20

NPO法人「アレルギー支援ネットワーク」(名古屋市)栗木成治さん に聞く

(写真)アレルギー支援ネットワーク理事の栗木さん
アレルギー支援ネットワーク理事の
栗木さん

NPO法人「アレルギー支援ネットワーク」(名古屋市)は、食物アレルギーの子どもたちの防災対策に熱心に取り組んでいる。多くの自治体は住民用に災害時の食料を備蓄しているが、食物アレルギー患者にとっては「食べられない」ものが多い。場合によっては生命の危険にさらされる重大な問題だ。もちろん、患者自ら災害に備えることが大前提ではあるが、自治体側もこうした患者の存在に配慮した備蓄計画が求められるのではないか。同ネットワーク理事の栗木成治さんに、活動の現状や課題を聞いた。

本稿は、bside 2009年1月号で特集した「災害と食」のなかで一部紹介していますが、紙幅の都合上雑誌記事では十分紹介しきれなかったため、あらためてweb版記事として再構成しました。(取材:2008年12月)

(1)地道な活動が成果を上げつつある

「アレルギー支援ネットワーク」も加盟する「東海アレルギー連絡会」が2005年に食品アレルギー対応の備蓄をしているかどうか全国調査をされています。どういう経緯で取り組まれたのですか?

栗木 東海アレルギー連絡会の発足は阪神・淡路大震災がきっかけでした。同震災の際に、私たちは全国の会と共同して被災地のアレルギーの方の支援をしたんです。後日、支援に参加した愛知県内のみなさんと開いた交流会で、大地震に備える取り組みを東海地方ではじめようという話になったんです。特に東海・東南海地震が想定されている地域ですから。その連絡会での取り組みのひとつですね。

アンケートはどういう形で集められたのですか?

栗木 郵送と直接アンケートを届けて聞き取ったものの両方です。アンケートを始める前に、まず愛知県のいくつかの自治体で先行して聞き取りをし、それを東海4県、全国に広げました。2003から2004年にかけて実施し、11都県164市町村から回答を得ました。

結果としては、赤ちゃんのアレルギー対応の粉ミルクの備蓄をしているのは全体の4%(7団体)などとなっています。

栗木 アレルギー対応の粉ミルクは備えている自治体はわずかでした。アンケート当時はアレルギー専用に開発された食品自体が少なかったこともあり、アレルギーに配慮した備蓄が必要だという認識のあるところが残念ながら少なかった。「必要ない」というより「そもそも対応商品がほとんどない」状態でしたからね。
 私たちは連絡会発足当初から「アレルギー対応の粉ミルクをとにかく備蓄してほしい」とお願いしてきました。通常のアレルギー対応商品であれば当時もあったのですが、災害用商品がなかった。そんな事情があったので、メーカーに対しては災害用のアレルギー対応ミルクを製造・販売してほしいと、また行政にはアレルギー対応の支援物資受け入れ窓口などを設置してほしいと要望してきました。

取り組みを続けられて、アレルギーに対する行政の災害担当部局の認識は変わってきましたか?

栗木 アンケートをした当時は、私たちのメーカーへの要望もあってアレルギー対応のアルファ米が発売されたばかりのころです。行政の災害担当者は「ほう、そんなものがあるのか」という感じでした。
 アンケート中の「アレルギー対応の備蓄食品があれば検討いただけますか?」という質問に対して、21.6%(25団体)が「ある」と回答してくれました。そういうところからも、少しずつ対応してくれるところが増えていると感じます。
 実際、現在では、アルファ米や粉ミルクを含めたアレルギー対応の食品を備蓄している自治体は東海4県で5割程度にまで増えています。名古屋や浜松、静岡など大都市の災害用の備蓄品には、だいたいアレルギー対応のアルファ米が入っています。

対応窓口の整備状況はいかがですか?

栗木 現状、はっきりと調査してはいませんが、食品アレルギーに対する認識が行政内部で随分広まってきたので、対応窓口になるところも明確になってきているんじゃないかと期待はしています。しかし、よく言われる「縦割り行政」の弊害で、これもなかなか難しいところがあるのが実態です。

(2)当事者としての自主防災体制も強化

「アレルギー支援ネットワーク」はさまざまな活動をされていますが、中でも災害時への備えというのは大きい柱のようですね。安否確認システムや防災救援システムの構築、各種団体とのネットワーク構築など、行政にアレルギーへの対応を要望するとともに、患者自身の自主的な取り組みにも力を入れられているとのことです。自主防災体制として、会員宅などにアレルギー対応の物資を備蓄されているということですが。

栗木 愛知・三重・岐阜・静岡県の4県下の連絡会全体で備蓄個所は現在、30か所くらいあります。小さなところでも50から100食くらいは常時備蓄しています。
 4県下に100か所、1500人分の備蓄を目標にしています。まだまだ足りませんが、1パックで子どもだと2食分はまかなえる分量なので、50食でも100食分のボリュームはあるんです。

アルファ米を食べたことがあるのですが、結構いけますよね。

栗木 アレルギー対応のアルファ米は一般のアルファ米よりも美味しいですよ。メーカーさんにも相当努力してもらって、一般食よりもおいしいものをつくってもらっています。アレルギーのない人でも食べられますし、値段も一般のものと変わりません。だから、備蓄品もアレルギー対応のものに切り替えてもらえるんです。「高い」「まずい」では、なかなか切り替えてくれないですよね。

ネットワークで特に力を入れていることは何ですか?

栗木 行政とはもちろんですが、災害ボランティアの人たちとの連携です。備蓄をする拠点をつくるだけでなく、備蓄品を供給する体制は必ず必要になります。その際に災害ボランティアの方の協力が不可欠なのです。
 阪神・淡路大震災の時も、私たちはふたつの供給体制ルートを組みました。ひとつは、大きな拠点として病院や保育園などに何百食か置く。もうひとつは直接患者からのSOSを受けて直接届けた。後でアンケートを取ったところ、大きな拠点に置いたところの利用率はそんなに高くなかった。やはり直接届ける方が確実だということがわかりました。そこで、「安否確認システム」で直接届ける方法を考えています。
 100から200食程度でいいのであちこちに置き、直接届けられるところは届ける、届けられないところはボランティアの方の力を借りて届ける。これをネットワークの基本にしていて、少し時間がかかっても必ず構築しようと取り組んでいます。

活動のためには、かなり費用がかかるのではないですか?

栗木 何よりも備蓄品にお金がかかりますね。現在は備蓄してもらうのはタダでやってもらっているのですが、100から200か所つくるとなると、タダだけではなかなか進まない。最低限の環境整備が必要になるのでどうしても費用がかかる。それらは支援ネットワークの活動の中で寄付をいただくなどしてやろうと思っています。今はまだ規模が小さいので、運営費の中で何とかやっていけますが、1万食、2万食を備蓄しようとすると大変です。
 また、自分たちだけではなかなかアレルギー対応食品にまで対応できないという小規模な自治体などと連携し、アレルギー対応の備蓄品を届けられるシステムをつくることなどを検討しています。今後も多くの費用が必要になるでしょう。

(3)アレルギー児を持つ親を孤立させない仕組みつくり

現在、アレルギーのお子さんは増えているのでしょうか。

栗木 厚生労働省の調べでは、食物アレルギーの人は平均2から3%だそうです。乳児の場合、食物アレルギーを持っているなかの1から2割は卵・牛乳で、こういう子どもたちは災害発生直後の約1週間を緊急に支援しなくてはいけません。東海・東南海地震の場合、10日から2週間くらいは支援が来にくいという広範囲な地震なので、その間を持ちこたえるために自主備蓄と行政の備蓄の両方でなんとか食いつないでいかなくてはなりません。

徐々にネットワークの活動が進展し、それに対する周囲の理解も深まっているようですが、現段階での課題はどのようなことですか?

栗木 確かに10から20年前に比べて、アレルギーの情報は増えました。ですが、それらが正確な情報かというと、必ずしもそうではありません。むしろ以前に比べて、アレルギーに関する正しい情報に行き着くのに苦労をする時代になっているともいえます。実際のアレルギーの症状はどうなのか、アレルギーの子どもたちがどんな現場で困るのか、ということは意外と知られていません。まして、アナフィラキシーショックなんて見たこともないという人も多いのです。
 特に生命に関わるようなことですので、多くの人に知っていただく必要があると考えており、正確な情報提供は私たちのテーマのひとつです。

具体的にはどのような活動を?

栗木 アレルギーの子どもたちの周囲には、保育士や栄養士、養護の先生など専門職の人たちがたくさんいます。一例ですが、こうした専門職の人たちにアレルギーを正しく理解してもらうために、「アレルギー大学」という名称の講座を開設しています。
 去年(2007年)は、愛知と三重、静岡の3県でのべ40講座を開き、約1400人に受けていただきました。医師や大学の先生に講師に招きます。赤字なんですが、どうにか続けています。こうした日常的な活動を通してできたつながりを災害時に活かす、というのが私たちの考え方です。

活動を持続させるためのご苦労も多いのではないですか?

栗木 アレルギーの会をつくって患者同士が支え合うことは実は大変難しい。なぜかというと、会の中心メンバーが子育て真っ最中のお母さんたちだからです。アレルギーの子どもは成長するに従って症状が改善され、会から卒業していく場合が多いので、ベテランのお母さんたちが会を支え、若いお母さんたちに情報を伝えていくという循環がつくりにくいのです。しかもそれぞれの会は規模が小さい。だからこそ、会を育てていく仕組みをなんとかつくりあげなければとならないと思っています。やはり財力がないと支えきれないので、繰り返しになりますが資金づくりにも苦労します。
 アレルギーの専門医も東海地方には多くいらっしゃるのですが、地域によっては極端に少ないところもあります。そういった格差の中でも会つくりをし、お母さんたちが孤立しないように支援しなければならないと考えています。

アレルギーの子どもを持つお母さんたちが孤立している場合もあると?

栗木 10から15年活動をしている優秀なお母さんたちは全国にたくさんいます。しかし、そのお母さんたちがサポートの側に回って20から30年活動を続けられる仕組みができていないんです。それをつくるためには、相応の組織と財力が必要です。これは医師にも企業にもできない。NPOをつくって日も短いですが、10年続くことができれば、財政的にも大きくすることもできるので、もっとエリアを広げて地域の会活動をサポートすることができると思っています。
 善意のドクターや企業、専門職の人たちにも理解が広がっています。私たちの活動を支えてくださる企業も20社以上に上ります。必要だから支援する、そういう仕組みがもっと増えてくるといいなと期待しています。

NPO法人「アレルギー支援ネットワーク」