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特別対談 山村武彦氏×鈴木松美氏(提供:コクヨ S&T 株式会社)

2009.01.05

特別対談 山村武彦氏×鈴木松美氏(提供:コクヨ S&T 株式会社)これからの社会に本当に必要なグッズ それは安心をつくるグッズだと思う

コンパクトかつスタイリッシュで携帯性に優れ、同時に高低2種類の周波数の音を出力してより多くの人に聞こえやすくした防災用ホイッスル「ツインウェーブ」がコクヨS&T株式会社(本社・大阪市)から発売された。

発売にあたり、同社の防災用品「防災の達人」シリーズを監修する防災アドバイザーの山村武彦氏と、音響の専門家として「ツインウェーブ」を共同開発した日本音響研究所所長の鈴木松美氏が対談し、同製品の特徴と他製品に比較した優位性などについて語り合った。

「ツインウェーブ」をきっかけとした対談は、救援を求めるという笛の音がもつ概念の共有化の確認とともに、そうした笛の音を受け止める社会のモラルや連帯感の向上の必要性にまで広がった。

山村氏「防災を全体的に捉えて用品を展開する『防災の達人』シリーズ」
(山村氏)


鈴木氏「『救助の人によく聞こえる』を原点に開発にあたった」
(鈴木氏)


山村氏 防災用品は数多くありますが、大企業として防災用品を系統的にラインナップさせているところはこれまでありませんでした。どこも個々バラバラにやっており、特にオフィスの防災、あるいは地域の防災という全体的な捉え方から防災用品を展開している例は見受けられなかった。

防災用と名乗っている懐中電灯にしても、振動に弱かったり防水機能がついていなかったりして、本当に災害時に使えるかどうか怪しいものがあります。逆に言えば、いつも災害が発生しているわけではないので、その辺の検証がおろそかなまま、販売されたり備蓄されたりしてきたのではないでしょうか。

私は44年間にわたって災害現場に足を運んできました。たまたまコクヨさんと縁があり、コクヨさんがもつオフィスの運営・管理手法といったノウハウに私の経験則や知恵や知識を加えて、実践的に役立つ防災用品を作りあげようと取り組んでいます。「防災の達人」シリーズとして各種グッズを展開させてもらっていますが、今回、新商品「ツインウェーブ」もそこに加わることになりました。

鈴木氏 私はもともと科学警察研究所におりました。警察は人の生命と財産を守るのが使命であり、そこで培った技術を民間でも役立てたいと考え研究所を設立しました。現在も犯罪捜査がメーンではありますが、今回のコクヨさんとのコラボレーションのような音に関連する商品開発にも多数携わっております。

防災用の笛は各社からいろんな商品が出ていますが、助けを求めるために使う笛ですから、まず何よりも救助にあたる人に笛の音が聞こえなければなりません。「人によく聞こえる」というところを原点にして、さまざまに工夫を凝らしました。コクヨさんとはおよそ1年にわたって、データのやり取り、試作、検証を繰り返してきました。ようやく他社製とは違った優位性のある商品を開発することができたなと自負しております。

山村氏「いつでも、どこでも、誰でもが持ち歩けるがポイント」
(山村氏)


鈴木氏「人間の耳に聞こえやすい2種類音を出すツインウェーブ」
(鈴木氏)


山村氏 この「ツインウェーブ」ですが、一見、笛とはわかりませんね。コンパクトで格好よくておしゃれです。非常時に大きいものは携帯しづらいですし、形状があまりに派手派手しいものだとふだん持ちにくい。これだとキーホルダーやIDカードにも付けられますね。

いつでも、どこでも、誰でもが持ち歩けるというのは、非常に大きなポイントだと思います。鈴木先生のいろんなアイデアが詰まっていながら、よくシンプルにできあがりましたね。

鈴木氏 人間の耳というのは、3000?5000ヘルツの周波数の音が非常に聞こえがいいんです。また、耳はいくつもの周波数の音を聞き分けています。しかし、なんらかの原因で特定の周波数を知覚している耳の中の繊毛(せんもう)が脱落しますと、その人は生涯その周波数の音が聞こえなくなってしまいます。

このような特定の周波数が聞こえない人が救助の現場にいるかもしれません。ひとつの音だけではなく、2種類、3種類の音が出せれば、より助けを求めやすいのではないかと思います。

ツインウェーブは、3200ヘルツと4800ヘルツの音を同時に出します。人の耳に聞こえやすい2つの音を出すのがこの笛の基本なんです。救急車やパトカーのサイレンも同じように聞きやすい周波数の音を出しています。人間で言えば、演説が上手で誰もが引き付けられると言われる米国次期大統領のオバマさんの声も分析してみると、ツインウエーブと同じような周波数成分の分布をしています。

山村先生、こういう性能をもつツインウエーブは災害の現場で役に立ちますか?

山村氏 はい、十分に役立つはずです。阪神・淡路大震災の現場で、ガレキのなかに生き埋めになった人たちから「救助を求めたかったが声が出なかった」「声を出したが聞こえなかったようだ」といった話をずいぶん聞きました。

現場から戻った私は、これは笛がぜひ必要だと思っていろいろ調べ、米国から「命の笛」というものを輸入しました。ただし、これは輸入品でコストが少々高く、サイズもちょっと大き目です。

今回出来上がったツインウェーブは、性能、携帯性とも優れ、ぜひ普及してほしい製品です。阪神では声なき声が地上に届かなかった無念の人たちがたくさんいたんではないかと思います。私たち市民も、行政だけに頼るのではなくて、こういうものを身近に置いて自ら備えなければならないと強く感じますね。

山村氏「助けを求める笛の音に耳を傾けるモラルも普及してほしい」
(山村氏)


鈴木氏「身につけた方の生命を救うことが、この笛の使命なのだと思う」
(鈴木氏)


鈴木氏 ツインウェーブは、通常で700?800メートル先までは音が届きますから、エレベータで閉じ込められた場合なども有効です。

さらに、軽い息で大きな音を鳴らせるので、お年寄りにも最適です。力がなくても同じ周波数が出せるように、ずいぶん苦労しました。息のエネルギーをほとんど音に変換して、非常に効率がいいんです。

山村氏 この笛の効果は、これからの防災対策に欠かせないように思います。高齢者でも、寝たきりの人でも、笛さえ吹ければ自らの居場所を知らせることができます。災害時の隣近所の安否確認が大変効率よくできるでしょう。

行政にはぜひ災害時要援護者などへの配布を考えていただきたいですね。

また、笛そのものの普及と同時に、笛の音というものは、誰かが助けを求めている音であると皆で今一度確認しておきたいとも思います。助けを求める笛の音に誰もがいつも耳を傾けている。そういうモラルも一緒に普及していったらいいなと思います。

社会的な不安が増大するとき、自分を守る道具、誰かを守る道具を身につけているというだけでも多少の安らぎが得られるのだと思います。社会の安全をつくるためには、私たちは、被害者、加害者、そして傍観者にならないことです。これからの社会に本当に必要なグッズ。それは安心をつくるグッズかなと思っています。

鈴木氏 ツインウェーブを持っているだけでも安心感が得られますね。たとえば、緊急時に声は出しにくいけれども笛だったら吹きやすいかもしれません。ただし、いつでも携帯して、吹く練習をしてみることです。訓練しておかないと、いざというとき思い出さないものですから。

ツインウェーブには、そういう身近なグッズとして普及してもらいたい。そして身につけてくださった方のうちのひとりの生命でも救うことができれば......。これが、この笛の使命なのだと思います。

山村氏山村武彦(やまむら・たけひこ)氏
防災システム研究所所長

1964年、新潟地震のボランティア活動を契機に防災アドバイザーを志す。過去1,000 回を超える防災講演会やマスコミ出演を通じ、防災意識啓発に活躍中。世界中の災害現地調査は120回以上にも及ぶ、実践的防災・危機管理対策の第一人者。1995年、科学技術功績者として科学技術庁長官賞受賞。
山村氏鈴木松美(すずき・まつみ)氏
日本音響研究所所長

警察庁科学警察研究所、科学技術庁などを経て「日本音響研究所」を設立。現在、日本音響研究所所長、アダム・スミス大学教授。声紋分析、音声合成の第一人者として、世界各国の政府機関からの依頼により、数々の事件や事故の調査・鑑定を手がけている。「バウリンガル」の開発に携わり、イグ・ノーベル賞を受賞。

防災用ホイッスル「ツインウェーブ」