正しく理解し、賢く恐れる~放射性物質のキホン
(3)食品などから取り込む「内部被ばく」
放射性物質が体内に入る「内部被ばく」も心配です。政府は、指標を示して食品などの摂取を制限しています。
内部被ばくの危険性の目安は100mSv
前回は、放射性物質が人体にどのような影響を与えるのか、症状が現れる時間経過で分類した急性障害と晩発性障害について紹介しました。もうひとつ、私たちにとって気がかりな被ばくがあります。「ただちに健康への影響はない」量の放射線ではあっても、それを長期間にわたって浴び続ければどうなるのでしょうか。すなわち、放射性物質が体内に入り込んでしまう「内部被ばく」に対する不安です。
皮膚などが放射線にさらされる「外部被ばく」と異なり、呼吸や食べ物などから放射性物質を体内に取り込んでしまうのが内部被ばくです。放射性物質が人体に蓄積されると、放射線を長期間にわたって受け続けるおそれがあります。皮膚に付着したときなどのように洗い流せませんし、体内に入った放射性物質は上下左右すべての方向に影響を及ぼします。これが内部被ばくの怖さです。
内部被ばくはどの程度までであれば許容されるのでしょうか。これについては残念ながら、健康への影響を示す明確な被ばく量は示されていません。ただし一般的に、年間100mSv(ミリシーベルト)を超えなければ健康に影響はないとされています。外部被ばくの晩発性障害と同様に、この被ばく量も広島・長崎の被爆者の健康調査などが根拠になっています。
もっとも、この数値にもさまざまな議論があります。同じ100mSvではあっても、一時に浴びるよりは長い時間をかけてじわじわと浴びたほうが健康への影響は少ないという見解がある一方で、100mSv以下であれば安全とするのは内部被ばくの影響を過小評価しているという批判もあります。学問的に決着がついていないため、この指標を断定的に扱うことには慎重であるべきでしょうが、ここでは一般に広く承認されているという事実を重視して話を進めましょう。
人体に入った放射性物質の振る舞い
福島第一原発から放出され、健康への影響が憂慮されている放射性物質には、放射性ヨウ素と放射性セシウムがあります。このシリーズの初回でも少し紹介しましたが、これらは人体に入ったとき、それぞれ特徴的な振る舞いをします。
まずは放射性ヨウ素。ヨウ素は甲状腺ホルモンに欠かせない元素です。そのため体内に入ったヨウ素は選択的に甲状腺に取り込まれます。甲状腺にとっては放射性の有無に関係なく、ヨウ素はヨウ素なのです。ただし、体内に入ったすべてが甲状腺に行くのではなく、大人の場合は全体の約7%、子どもの場合は約20%が取り込まれるといいます。その他は尿や汗などの代謝によって体外に排出されます。
さらに半減期があります。放射性物質が崩壊してもとの量の半分になるまでの時間が半減期でした。厳密にはこれは物理学的半減期と称し、放射線ヨウ素は約8日です。これとは別に、内部被ばくの場合は生物の代謝作用で体外に出されます。これを生物学的半減期といい、放射性ヨウ素の場合は甲状腺で120日、その他の部位で12日とされています。
一方の放射性セシウムは、人体に入ると全身に行き渡りますが、濃度は骨で低く、筋肉で高いとされています。体内に摂取されたものの約1割はすみやかに尿などから排泄されます。物理学的半減期は、放射性セシウム137で約30年、放射性セシウム134で約2年と長く、生物学的半減期はいずれも約100日とされています。ただし、筋肉にがんが発生することはまれであるため、健康被害に関しては放射性ヨウ素のほうが注意が必要とされています。
放射性物資とその半減期
| 名称 | 集まりやすい部位 | 物理学的半減期 | 生物学的半減期 |
|---|---|---|---|
| 放射性ヨウ素 | 甲状腺 | 約8日 | 120日(甲状腺) 12日(その他) |
| 放射性セシウム | 全身(特に筋肉) | 約2年(134) 約30年(137) |
約100日 |
暫定基準値について
今回の原発事故ではすでに、浄水場の水、加工処理前の原乳、葉野菜などから放射性物資が検出されています。その値が高濃度であった場合に、政府は摂取制限などの措置を講じています。その指標となっているのが、報道によく出てくる「暫定基準値」です。なぜ暫定なのでしょうか? どのように決められた値なのでしょうか?
本来、食品に含まれる有害物質は、食品衛生法で厳しく管理されています。ところが、放射性物質については、同法上に規定がありませんでした。原発事故が発生して飲食物が放射性物質に汚染されていることが明らかになったため、厚生労働省が急きょ設定したのが暫定基準値です。これは、国の原子力安全委員会が示した「飲食物摂取制限に関する指標」を暫定的に準用しています。
それによると、放射性ヨウ素、放射性セシウムについて表のように年間の摂取量が決められています。放射性ヨウ素の場合だと、飲料水や牛乳・乳製品で1kgあたり300Bq(ベクレム)まで、野菜類で2000Bqとなっています。放射性ヨウ素に穀類や肉、魚などが含まれていないのは、半減期が約8日と短いため、これらの食品に含まれて人体に移行する程度が小さいと判断されているからです。
飲食物摂取制限に関する指標(1kg当たり)
| 放射性ヨウ素 | 放射性セシウム | |
|---|---|---|
| 飲料水 | 300Bq | 200Bq |
| 牛乳・乳製品 | 300Bq | 200Bq |
| 野菜類 | 2000Bq (根菜、芋類を除く) |
500Bq |
| 穀類 | - | 500Bq |
| 肉・卵・魚・その他 | - | 500Bq |
暫定基準値は、これらの濃度が含まれる食品を1年間摂り続けたとしても、放射性ヨウ素の場合は甲状腺で50mSv、放射性セシウムの場合は全身で5mSvを超えないように設定されています。内閣府の食品安全委員会は事故後、この暫定基準値の妥当性について議論し、いずれも「安全を考慮している」と結論。放射性セシウムについては年間10mSvに基準を引き上げても「不適切とはいえない」と指摘しています。農作物を生産している農家から基準の緩和を求める声が強いことに配慮したもので、厚生労働省は近々、暫定基準値を見直す必要があるかどうかを検討するとしています。
次回は、日常生活のなかで放射性物質を避ける具体的な方法を考えます。













