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【第12回】集中豪雨が残した教訓

2010.11.04

集中豪雨のイメージ2010年夏9月8日、台風9号は福井県に上陸後、東進して熱帯低気圧に変わり、富士山東麓に位置する静岡県小山町に記録的な大雨をもたらした。時間雨量110 ミリ、総雨量600 ミリの豪雨により町中心を流れる鮎沢川支流の野沢川が増水し、上流の柳島地区66世帯が孤立した。気象庁は記録的短時間大雨情報を発表し、町は柳島地区などに避難勧告を出して住民の安全を図った。隣接する御殿場市でも緊急事態と判断して避難指示を発令している。人的被害はテレビの取材スタッフ1人が転落して重体となったのみ、道路や橋梁、住宅の流失などの災害状況を見れば幸いだった。無被害であったことは奇跡に近く、昭和47年大水害の経験が生かされた結果と思われる。

近年の自然現象の変化を反映した地域防災計画を

このところ、全国的に記録的な降水量による土砂災害と内水氾濫、その後の湛水被害が多く発生している。降水量データは気象庁や国土交通省、都道府県などの観測施設と伝達システムの整備が進み、インターネットを使って刻々変化する状況を簡単に入手できるようになった。防災担当者は状況にあわせて対策を進めやすくなったが、迅速に警報を発することで人命を守りやすくなったわけではない。洪水の発生を抑制する事業、万が一洪水が発生した場合に氾濫を防ぐ防御事業が整わなければ被害の軽減は解決しない。

総降水量の変化を国土交通省の資料「1時間50ミリと100ミリを超す豪雨の推移」(1時間降水量の年間延べ件数)でみると、1980年代の発生回数200 回を基準として、90年代が1.17倍、2000年代には1.56倍と次第に増加している。経年の記録では変化を繰り返して特徴を見出しにくいが、長期間のトレンドで見ると年々豪雨の回数が増加している。

毎年、地域防災計画に新たな情報を盛り込む修正はされるが、自然現象の変化を反映した対応策に手を加えることは少ない。避難勧告の基準となる数値の見直しや都市における豪雨時の排水計画の再構築などに対して、町内会単位で民間施設や複合住宅の利用を図るなど抜本的な考え方を示す必要がある。

避難勧告は住民に理解されたか

今回、小山町は6地区161 世帯に避難勧告を発し、それに従って63人が小学校体育館に避難した。昨年発生した駿河湾の地震(2009 年9月11日)の際に沿岸市町で避難勧告が発令されたにもかかわらず、津波浸水危険地域の人たちはほとんど避難しなかった。津波と洪水とは状況が違っていたとしても避難勧告に相違はない。

洪水や土砂災害など状況の変化が予測される場合には、住民が身の危険を肌で感じて勧告を素直に受け止めそうであるが現実はそうでもない。平成16年新潟豪雨災害では、「寝たきりで家屋が浸水して溺死(78歳、男性)」「裏山が崩れ圧死(83歳、男性)」「用水路に転落して溺死(72歳、女性)」など高齢者が多く犠牲になった。避難を呼びかける情報は「避難勧告」「避難指示」の2段階だったが、その年の水害被害をうけて避難を早めるための「避難準備情報」が新設された。

小山町では幸いにも死者は出なかったが、めったに聞くことのない避難勧告がどの程度理解され、安全行動に結び付いたのだろうか。バケツをひっくり返したような雨の中、高齢者、寝たきりの人、傷病者、乳幼児はどのように避難したのであろうか。これらの人たちの多くは周囲の支援が不可欠であり、それが得られず避難を見送った人も多くいたのではなかろうか。避難対象地区には少なくとも500 人近くが住んでいたはずで、自力で行動できる人たちだけが避難したのではないかと思われる。

その他、被災地の復旧支援に訪れたボランティアの受け入れや、水にぬれた畳や家具などの路上投棄、港湾内への流木やごみの滞留と除去などの対応が求められた。これらを踏まえた地域防災計画の見直しが必要となろう。

井野盛夫(いの・もりお)
富士常葉大学環境防災学部客員
1937 年静岡市に生まれる。61 年東京教育大学卒業後、静岡県職員に採用される。工業用水道課、水資源課、地震対策課長を経て92年より防災局長。96年より静岡県防災情報研究所長。2000年より富士常葉大学環境防災学部長、07年度退職。理学博士。
中央防災会議専門委員、地震調査研究推進本部専門委員、静岡県立大学客員教授、兵庫教育大学講師、静岡大学講師などを歴任。97年国土庁長官防災功績者表彰。
著書に『21 世紀東海地震』(羽衣出版)『こうすれば東海地震はこわくない』『抗震-東海地震へのアプローチ』『抗震(改版)』(静岡新聞社)『今だから知りたい東海地震』(共著、静岡新聞社)『名水を科学する』(共著、技報堂)『地震予知がわかる本』(共著、オーム社)『地域防災計画の実務』(共著、鹿島出版)『東海地震いつ来るなぜ来るどう備える』(共著、清文社)など。

※本稿はbside2010年10月号[Vol.12]に掲載したコラムを再掲載しています。