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【第11回】住民の防災力を高める

2010.07.21

地震災害災害が発生した時、その規模が大きければ大きいほど行政の対応は広域となり、種類も多く量も増加する。このため被災した住民は自己努力や地域住民の相互支援によって対応せざるを得なくなり、そして公的な支援を待つ時間が長くなる。

行政は被害が大きくならないように予防対策をすすめ、応急対策の種類と量を減らすために住民自身の防災力を高めておくことが理想となる。例えば水道が断水して被災地の住民から応急給水の要請があった場合、水道関係者がその対応に追われると個別対応に時間を取られシステム全体の復帰も遅くなる。事前に多くの住民が飲料水を貯めていれば、緊急時に住民から公的支援を求める時間が遅らせることができ、断水した水道水の復旧が早くなる。

阪神・淡路大震災直後、被災者が神戸市役所に対して何を要求したか震災記録を見ると、飲料水が一番で、次に食料、寝具、そして発災したのは極寒の1 月中旬であったことからカセットコンロ、ストーブ、カイロなど暖房器具であった。消防庁が震災1 か月後に、被災者から「準備していたもの(こと)のうち役立ったもの(こと)」を聞いたところ、ラジオをあげた被災者が圧倒的に多かったが次が飲料水であった。ついで懐中電灯、医薬品、「棚の上に重い物を置かない」、そして食糧品、「家具の固定」、耐震自動消火装置付き石油ストーブ、「貴重品をひとまとめに」の順であった。

また、静岡県民が東海地震に備えている内容は次の通りである(東海地震県民意識調査2009)。「非常持出し品を用意」、「消火器などを用意」、「避難場所を決めている」、「ガスの元栓を閉める」、「風呂に水をいれてある」と続き、「特に備えていない」との回答も結構多いのに驚く。その非常持出し品は、半数の人が懐中電灯、携帯ラジオ、非常食、飲料水、手袋、ティッシュペーパー、タオルとなっている。

住民の事前準備が復旧を早める

大切なのは、住民がどのようなもの(こと)を準備しておけば、突然発生する災害にも対応できるかである。言い換えると住民の防災力とは、事前対策として住宅の耐震化、必要物資の備蓄、家具の固定と災害に関する知識の習得、緊急時の行動計画の作成である。これら全てが準備されていれば各般の復旧時間が短縮できるはずである。

まず、家屋の耐震化であるが、建物の所有者がその気にならなければ進まないのが現実である。耐震化の推進には防災部局からの呼びかけでは限界があり、税制の優遇等を含めた多面的な視点も加えて取り組まなければ進展しないところまできている。また、耐震診断 の結果補強する必要があっても費用の捻出が大変だという理由で工事が進まなくなることが多く、行政の努力に加え広く関係業界の協力も得たいところである。

家具やテレビの固定は地震対策の基本であるが、これも一定以上進まず一部固定を含めても実施率は約6 割である。進まない理由として、「手間がかかる」、「固定しても被害が出ると思う」、「家具類を置いていない安全な部屋がある」、「借家だから」、「固定しなくても大丈夫」、「建物や家具を傷める」とその理由はまちまちである(静岡県同調査)が、要するに自分の命を守るための行動である理解が不足している。家具固定に関する研究も飛躍的に進み、新しい素材や固定方法について行政側からの積極的な広報が求められる。

「家族の話し合い」も訓練に

九州で発生した口蹄疫に対して自治体の対応はまちまちであったが、緊急事態発生時の対応計画が作られていたところは功を奏したと報じられている。災害についても洪水が発生して危険が予想され避難勧告が発せられた時、住民が通報内容や避難ルート、その場所を行政等に電話をして問い合わせていたのでは間に合わない。せめて事前に緊急事態発生時の行動について家族が話し合うことを、訓練項目に加えてほしいものである。

住民の防災力を高めるのは、住民の命や財産を守るためであるのは論を待たないが、行政側から見ると応急復旧業務を縮小できる利点がある。応急対策行動の訓練のほか家庭内対策の点検にも重きを置くことにより、防災力が必然的に高まると考えている。

井野盛夫(いの・もりお)
富士常葉大学環境防災学部客員
1937年静岡市に生まれる。61年東京教育大学卒業後、静岡県職員に採用される。工業用水道課、水資源課、地震対策課長を経て92年より防災局長。96 年より静岡県防災情報研究所長。2000年より富士常葉大学環境防災学部。理学博士。

中央防災会議専門委員、地震調査研究推進本部専門委員、静岡県立大学客員教授、兵庫教育大学講師、静岡県講師などを歴任。97年国土庁長官防災功績者表彰。

著書に『こうすれば東海地震はこわくない』『抗震-東海地震へのアプローチ』『抗震(改版)』(静岡新聞社)『今だから知りたい東海地震』(共著、静岡新聞社)『名水を科学する』(共著、技報堂)『地震予知がわかる本』(共著、オーム社)『地域防災計画の実務』(共著、鹿島出版)『東海地震いつ来るなぜ来るどう備える』(共著、清文社)など。

※本稿はbside2010年7月号[Vol.11]に掲載したコラムを再掲載しています。