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【第2回】防災計画策定の基本は被害想定

2010.07.04

地域防災計画の目的は住民の生命と財産を守ること

地域防災計画の策定や改定にあたっては、地域住民の生命と財産を守ることが目的であることを忘れてはならない。ともすれば枝葉末節な事項にとらわれて肝心な住民の安全が疎かになり、対応がとれない内容となってしまっては元も子もない。実際の作業を通じても、この目的を絶えず確認しておきたい。そのうえで今回は、防災計画策定の基本となる被害想定についてポイントをまとめてみた。

災害は地域の地形地質によって発生の種類が変わる。集中豪雨を例にとると、上流域においては土石流やがけ崩れ、中下流域で破堤による湛水や内水氾濫、河口付近では潮位の影響を受けて湛水するなど災害の形が変わる。ややもすると管内を同じ計画で扱いがちであるが、河川の例を挙げるまでもなく、さまざまな条件によって災害が示す姿はまったく異なるものになることを理解してほしい。

過去の災害記録には大いに学ぶところあり

イラスト:過去の災害イメージ次に大切なのは、地域において過去どのような災害が発生したかについて調べておくことである。同じ災害が繰り返し起こることは古くから伝えられ、家床の高さや人工林などにその意味が込められている地域もある。沿岸地域では高波や高潮などによる災害を経験するが、津波がどこまで浸水し、その痕跡があるかも調べておきたい。古文書などの資料としては、地域の神社や寺院の日記、郡史や村史の類、家督の記録や旅行記など多く存在する。ただし、災害の発生から時間が経過すると、伝聞や孫引きなどによって信憑性に疑問が残る書物が現れることがあり、すべてを信頼して地域の被害を組み立てるのは危険である。

伊豆半島南端の津波被害状況を知るために、地元の自治体では『下田日記(川路聖謨・かわじとしあきら)』『下田の栞・しもだのしおり』『豆州下田表地震津浪実記・ずしゅうしもだおもてじしんつなみじっき』『日本渡航記(ゴンチャロフ)』『大津波に付頂戴物見舞其他扣・おおつなみにつきちょうだいものみまいそのたひかえ』『加茂郡安良里村沿革・かもぐんあらりむらえんかく』などの資料を集めた。これらの資料から現在の市街地のどの辺りまで浸水したかを電柱に標高表示をし、さらに避難場所を選定する資料として当時の津波浸水図を利用した。先人が現地に残した「いしぶみ」も重要な資料となることがあるので、現存していれば内容を調べる必要がある。

河川災害では過去発生した洪水によってどの辺りの堤防が切れ、水位がどれくらい上昇したか、また何日ぐらい湛水していたかなどの記録が資料になる。地域に洪水時の痕跡が残されていれば対策計画を立てやすく、住民も避難行動の必要性を理解しやすい。

富士川中流で山梨県と静岡県の境界にある白鳥山は、宝永東海地震と安政東海地震の2回、東斜面の大崩壊を経験した。ここには、土砂に巻き込まれた住民を悼む石碑が残されている。このほかにも『富士郡史』『富士郡五貫島村富士川覚書・ふじぐんごかんじまむらふじかわおぼえがき』『狩宿井出家文書・かりやどいでけぶんしょ』『袖日記』などが重要な対策資料として利用されている。

被害想定は平均的な結果を使う

基礎資料の収集にめどがつけば、これらを基に災害発生モデルの構築が可能になる。同じメカニズムの災害であっても、発生時の状況が異なると結果も大きく変わる。気象や時刻、想定地の地盤地質、建物の種類や建築年度、家屋の密集度、定住する人口数と年齢構成、防災力などから被害の様相は変化する。

最悪で極限の被害想定を見かけることがあるが、注意すべきである。あまりにきびしく被害想定を受け止めてしまうと、十分な対応策が見つからない恐れがあり、被害想定としては実現性の乏しいものになってしまう懸念があるからだ。対策計画策定のうえからは、あくまでも平均的な被害想定結果を使い、総合的に関連をもたせた計画内容にまとめるようにしたい。

井野盛夫(いの・もりお)
富士常葉大学環境防災学部客員
1937年静岡市に生まれる。61 年東京教育大学卒業後、静岡県職員に採用される。工業用水道課、水資源課、地震対策課長を経て92 年より防災局長。96 年より静岡県防災情報研究所長。2000年より富士常葉大学環境防災学部。理学博士。

中央防災会議専門委員、地震調査研究推進本部専門委員、静岡県立大学客員教授、兵庫教育大学講師、静岡県講師などを歴任。97年国土庁長官防災功績者表彰。

著書に『こうすれば東海地震はこわくない』『抗震-東海地震へのアプローチ』『抗震(改版)』(静岡新聞社)『今だから知りたい東海地震』(共著、静岡新聞社)『名水を科学する』(共著、技報堂)『地震予知がわかる本』(共著、オーム社)『地域防災計画の実務』(共著、鹿島出版)『東海地震いつ来るなぜ来るどう備える』(共著、清文社)など。

※本稿はbside2008年4月号[Vol.2]に掲載したコラムを再掲載しています。